「二月大歌舞伎」を観劇 2021年2月13日(土)

よく晴れた朝10時。東銀座の歌舞伎座の前に、久しぶりに顔を合わせる南甲倶楽部のメンバー。総勢25名が集まった。コロナ禍で当倶楽部のほとんどの活動ができない中での観劇会! 久々に互いの元気な様子が確認できて感激! 受付でチケットを受け取り、入り口前で記念写真をパチリ。入館前に手指消毒と検温を経て、いざ歌舞伎座の中へ。

我々の席は一等席で(私は5列目)、舞台がとても近く、それだけでかなり心が躍った。観客数も通常の半分程度に減らされていて、隣の席は利用できないように紐で綴じられている。

「柝(き)」という拍子木の音が鳴る。(そろそろ始まる)その音とともに、期待感が増してくる。幕が開き、何より舞台のつくりと役者の着物の美しさに目を奪われた。上手下手には、仕切られた美しい和室がそれぞれある。今日の第1部の1幕は「本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)」だ。浄瑠璃から移入されたもので、上手には語りと三味線がいて、ここにもコロナの影。語りは黒いマスクのようなものを付けている。中央には、花作りに身をやつしてはいるが、気品と貫禄に満ちた武田家の御曹司である主役の勝頼(門之助)が微動だにせず決め込んでいる。上手には、御簾越しに華やかな赤い衣の勝頼の許嫁である(武田家とは争いが絶えない)長尾家の八重垣姫(魁春)の姿がある。愛する勝頼が死んだと思い込み、その勝頼が描かれた掛け軸を眺める後ろ姿から、悲哀と激しい恋心が伝わってくる。彼女が焚く、その煙の中に死者の姿が現れるという伝えの〝反魂香〟が、ほのかに私の席まで燻ってくる。

下手には、対照的に黒い着物に身を包む、臈ろうたけた色気の濡衣(孝太郎)の姿が。扇を手にしての一つ一つの所作に恋心・乙女心が覗える。一人の男を巡る二人の女性の対照的な愛情表現に、うっとりと見入ってしまった。

15分の休憩をはさんで、今度は「泥棒と若殿」という山本周五郎原作の舞台だ。泥棒の伝九郎(伝九)(松緑)と若殿の松平成信(信さん)(巳之助)との、立場も性格も違う二人が交わる物語だ。滑稽な動きや化粧や衣装から、ドリフの喜劇が思い出された。1幕とは異なり、ほぼ現代語のセリフなので楽な気持ちで観ることができた。

干物は「しもの」だったり、江戸情緒たっぷり。半ば世捨て人のように生きていた信さんが、情け深く愛嬌のある伝九との生活から生きる力を蘇られていく様が描かれている。男女の熱い恋愛、男二人の人情話と、たった数時間ではあったが、心が熱くなったり、ほんわかしたりと、存分に歌舞伎を満喫できた。

人との関わりを絶たねばらないこの1年の生活で、触れることがなかった、美しい色彩や人の動きを目にし、香りをかぎ、声や拍子木や三味線の音に触れ、身体中の細胞がうごめいたひと時だった。つくづく、日本人に生まれてきてよかった……と実感した。

コロナ禍で、エンターテインメントを取り巻く環境は非常に厳しいが、これだけ人の心を大きく揺さぶる日本の伝統芸能の「歌舞伎」は何があっても絶やしてはならない、と強く思う。そしてまた、南甲倶楽部の皆さまと、こんな感動を共有したいと、次回の観劇会を今から楽しみにしている。( 常任理事 魚本 晶子)

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